一、七海カナタ

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 脳裏にこびりついた悪夢を払おうと、ベッドで寝たり、スマホでゲームしたりしたけれど、気晴らしにもならなかった。晩飯は野菜炒めとコロッケで、野菜に混じった豚肉を見た瞬間、吐き気が蘇った。  母親に食欲がないことを伝え、部屋で横になっていると、いつの間にか、朝日が昇るのが見えた。学校を休むかどうか迷ったけれど、七海カナタのことが気になって結局登校した。何が起こっているのか、自分の目で確かめるまでは落ち着く気がしなかった。 「アキラ君、どうしたの? 顔色が悪いよ?」  朝の教室。HRが始まる前に、声をかけられた。ウェーブがかった髪を揺らして駆け寄ってきたのは、小学校からの幼馴染「渡辺ミナモ」だ。  彼女は子犬のように人懐っこくて、クラスでも人気の女子だ。昔は眼鏡かけていたし、一人で本を読んでいることが多かったので、当時と比べると、大分印象が変わったように思える。一時期「高校デビュー」とからかわれていたけれど、実は昔から笑顔が似合う子だった。  ミナモに笑顔を返そうとするけれど、自分でも分かるくらい表情がうまく作れない。何か気づいたのか、ミナモが小さく手を叩いた。 「分かった。また朝まで漫画読んでたんでしょ?」 「あはは、そんな感じかな……」     
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