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序
幼い頃、祖父の家で見た夕陽――。
燃え上がるような真っ赤な空が、未だに忘れられない。
それはまるでトラウマのように――。
美しい原体験として、脳裏にこびりついた。
ひんやりとした空気も、遠く雲の動きも、風が撫でる枝葉の音も――。
郷愁のような、畏れのような、甘く切ない感情も――。
全てが幻想的で、非現実的で、心を躍らせた。
その日の帰り道、本屋を出た俺の足が止まったのも、不意に夕陽を目にしたからだ。しかし、その日の夕陽に郷愁を抱く隙はなかった。
何故なら、その幻想的なオレンジ色は――次の瞬間「生々しい赤」に染まったのだ。目が覚めるような原色の赤に。
空から降ってきた少女が――。
地 面 に
叩き つ けら れ、
死ん だ の だ 。
折れた腕は不可思議な方向に曲がり、溢れた血がアスファルトを染め上げていく。少し開いた口からは血が垂れ、べっとりと血をまとった長い黒髪が八方に散っていた。
俺を見上げる空虚な瞳は、まるで壊れた人形のようで――。
セーラー服の少女が、鮮血に沈んでいた。
それが――。
俺と、彼女の出会いだった。
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