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二、アガシ警部
カフェテリアに悪魔が現れたその日――。
まだ肌寒さが残る四月十五日の夕刻。
明治通りのカツ丼屋で、若い刑事が箸を置いて声を上げた。
「俺、アガシ警部みたいな正義の警察になりたいっす!」
隣に座る大柄で無精ひげの刑事が、瞳を輝かせる短髪の刑事を一瞥した。
「俺が正義だって?」
「そうですよ。この前のホシ、普通は怖じ気づきますよ。足場の悪い工事中の高層ビルで身体張って犯人確保した瞬間! 震えました! 例の人質事件だってそうですし。あ、あと、あんまり多くを語らないところも正義っぽいっす。俺にとって、アガシ警部は正義の味方っす」
「俺が多くを語らない? お前がおしゃべりなだけだろ」
アガシと呼ばれた警官は、箸を置いて苦笑いした。
「不動……じゃあ聞くが、正義って何だ?」
若い刑事――不動と呼ばれた男は、小さな頃からテレビに出てくるヒーローに憧れていた。自分もヒーローになりたいと思っていた。刑事になった不動にとって、アガシは理想のヒーローそのものであり、その背中を追ってきた不動にとって、その問いに対する答えは、単純明快だった。
「弱気を助け、悪を挫く者じゃないっすか!」
「つまり暴力だな」
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