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「そーよ。就職や進学といった大きなハードルを乗り越えるとー、肩の荷が下りてやる気がなくなっちゃうの。症状としては無気力、生活習慣の乱れ、不眠、だらしない口調とかが挙げられるわねー。まさにあたしのことね、あははー」
「そこまで自己分析できるなら、対策しなよ。せっかく科学捜査の最先端、憧れの科捜研に入所できたんだから」
科学捜査研究所は、警察の附置組織である。刑事事件で収集した証拠品のうち、鑑識課でも解明できない高度な分析を要するときに鑑定を依頼される。また、刑事部からの臨場要請に応じて事件現場や聞き込み捜査に同行することもある。
総本山である東京都には、総勢八〇名の研究員が所属している。また、各道府県にも小規模ではあるが科捜研が設置されている。
科捜研へ就職するのは至難の業だ。数年に一度しか求人がない県も多く、募集があっても一名のみ、なんてこともザラだ。専門知識を要する研究職であるため、正規の警察採用ではなく、他企業などで専門職に従事した経験を買われて引き抜かれたり、大学院から特別採用されたりする者が多い。
採用試験に合格すると、警察学校で一ヶ月だけ座学を習う。その後、科学警察研究所で科学捜査の基礎を研修し、ようやく科学捜査研究所での勤務となる。
この男女も、その研修を終えたばかりの新人だった。年齢はやや男性が年上か。どちらも大学院の社会犯罪学および犯罪心理学の博士課程を修めている俊英だ。
『科学捜査研究所 文書鑑定科』
と表札が掲げられた扉を、二人はくぐる。
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