0.事件のあらまし

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0.事件のあらまし

 東京郊外にある実ヶ丘(みのりがおか)市で、一人の女性が警察へ被害届を提出した。  案件は結婚詐欺。結婚を前提に恋人から支度金をせびったり、身辺整理のため借金返済する名目で金銭を無心したりする罪である。  尤も、結婚詐欺そのものを問う罪状は存在しない。正式には財産を騙し取った『借用詐欺』や『寸借詐欺』の一種として扱われる。  被害女性は相当にやつれ、ふさぎ込み、精神を病んでいた。  恋人に裏切られた虚脱感と絶望感。  詐欺被害のショックで仕事も手に付かず、休職ののち退職している。果ては精神病院に通う始末で、まともな会話さえ出来なくなりつつあった。  事件を担当することになった東京都実ヶ丘署捜査二課は、彼女に身寄りが居ないか探すとともに、証拠品の鑑定を『科学捜査研究所(かがくそうさけんきゅうじょ)』へ依頼した。  被害女性の名は、忠岡(ただおか)恂奈(じゅんな)と言った。    *
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