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理真の座る椅子の後ろを足早に通りすぎようとした理斗の腕が強くつかまれる。腕を引かれた方向を見やれば、理真がしれっとした顔で赤ワインをあおりながらもしっかりと理斗の腕に手をかけていた。
「手を放せ」
「……とぉくん、そんなに嫌?」
「その呼び方はやめろ」
幼い頃は今のように『理真』『理斗』と名前では呼び合っていなかった。互いを『まぁくん』『とぉくん』と親しみを込めて呼び、ほかには特に親しい友人も作らず、唯一の例外として幼馴染の苑宮修也とだけ仲良く遊んでいた。
「ねえ、なんでそんなに嫌がるの? 理斗は俺の番なのに俺のことが嫌いなの?」
「血が繋がっている」
「そんなの関係ない。俺は理斗を番にしたあの日から、ほかのオメガになんて反応しないよ?」
畳みかけてくる理真に返す言葉が見つからない。いつもこうして一方的に言いたい放題にさせてしまうのだが、理斗には理真が納得できる答えを返すことができないので仕方ない。
理真は言外に「理斗は俺の『運命の番』だ」と含ませてくる。しかし、理斗にしてみればそれをすぐに受け入れることなどできるはずがなかった。
アルファとオメガの間には一般的な番とは異なる『運命の番』と呼ばれる特別な繋がりが存在する。一般的な番の場合はベータ同士の結婚のように恋愛やお見合いなどを経ることがほとんどだ。ただし『運命の番』の場合は出会った瞬間に互いに惹かれ、激しく求め合うと言われている。出会える確率は低いものの、仮にほかに番っている相手がいても『運命の番』が現れれば、愛し合っていた片割れを捨てることもあるらしい。
だが、運命が番だと決めてくれたとしても理真と理斗は血の繋がった兄弟だ。人の道から外れた番など社会的に認めてもらえない。
「約束したはずだ。理央がまた笑えるようになるまで……アルファと番ってしあわせになるまで、俺は理真とは何もしない」
「考えるくらいしてくれたっていいのにさあ」
駄々っ子のようにすねた口調で食い下がる理真の腕を振りほどこうとしたが、理真の力は強くて腕は離れなかった。逆に引っぱられて体勢を崩した理斗は椅子に腰かけた理真の上に座る格好になってしまう。
「は、放せ」
「理斗、顔見せて」
「断る」
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