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こんなに近くに理真の体温を感じていては、まともに顔を見ることなどできない。理斗は自分のアルファが放つフェロモンの香りに体温が上昇していくのを抑えることができなかった。こんな自分を理真に見られるなど耐えられない。
そう思っているのに理真はうつむいたままの理斗のあごをそっと持ち上げて顔をのぞき込む。自分と同じ色素の薄い茶色い瞳が楽しそうに細められた。
「なんて顔してんの。キスしていい?」
「理真、駄目だ。やめろ」
息がかかるほど顔を近づけられると、ストレートパーマをかけた理真の長めの髪の毛が鎖骨に当たってくすぐったい。もう少しで唇が触れるというところで理斗は掠れた声で拒絶の言葉をつむいだ。
理真はくちづけることはしなかったけれど、理斗にもっともダメージを与える事実を指摘した。
「いい匂いしてるね、理斗。そろそろ発情期だもんな」
少しクセのある理斗の茶色い髪に理真が優しく触れると、言われた通りオメガ特有の炎が体の奥に灯ったことを自覚する。理斗は慌てて理真から距離を取った。
「発情期でも理真に迷惑はかけないようにする」
「迷惑? なんで? 理斗とエッチしたいって話をしてるだけじゃん」
「俺はもう寝る!」
発情期の兆候がある以上、番である理真と同じ空間にいることは理斗にとって危険でしかない。
アルファとオメガが番になった場合、オメガは番に対してのみ発情を誘うフェロモンを放出するように変化する。ほかのアルファやベータには影響しないが、番となったアルファにはダイレクトに働きかけるものだ。アルファは番ったオメガ以外のフェロモンを感じ取ることができるし性交も可能だが、オメガは番ったアルファ以外と性交すると耐えがたい苦痛を味わうため、自分の番としか性交はできない。
つまり、理真はほかのオメガと番う機会を持っているが、理斗は理真以外の誰とも肌を合わせることができないということだ。
理斗はいつだって捨てられる覚悟をして生きてきた。いつか理真にはふさわしい伴侶が現れる。そのときが来ることを考えて必要以上に理真には近づかず、性的な意味合いを持った接触をすることを許さなかった。
そんな理斗に理真はほかの番たちがするように抱き合おうと言い続けている。
自分への責任感や憐れみでそんなことを言われているのなら、この上ない屈辱だ。
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