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 戸惑う朔を残して理央は食堂を出ていく。追いかけようとした朔の肩をつかんだのは理真だった。 「……マジお前頼むからね」  これまで理真に当たり散らされていた朔が怯えながら何やら反論しているようだ。 「いいから理央ちゃんのところに行けって。それから理斗、俺の部屋に来い」  理真は特に気にした風でもなく朔を理央の元へと行かせたが、同時に理斗の退路を完全に断った。理真の言葉に逆らうことは覚悟ができていないことを意味し、理真が家を出ていくことに繋がってしまう。 「理斗、来いよ」  高圧的な口調で繰り返されて理斗はのろのろと立ち上がった。食堂の入り口に立っている理真のそばまで歩いていくと手を差し出される。 「理斗の意志で俺の手を取って」  目の前にある理真の手に理斗はなかなか手を伸ばすことができなかった。理真は急かすことなくただじっと手を出したままでいる。  この手を取ったら受け入れることになるが拒めば理真をうしなってしまう。理斗の最大の恐怖は理真をうしなうことだ。 「こ、怖い。理真、俺、怖い」 「理斗に怖いことなんてしないから」  歯の根が合わないほど怯えている理斗に、理真は十年前に番になった夜とよく似た台詞を言った。
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