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膝が笑いそうになるのを叱咤しながら、なんとか理真の部屋に足を踏み入れた理斗はすでにクタクタだ。ふとテレビのそばにあるテーブルが目に入った。シートに入った薬が一錠だけ置かれているほかには何もないが、それを見た理斗は凍りつく。
「理真……その薬ってまさか」
「うん。発情誘発剤」
もう理斗が逃げないと思ったのか、理真は一度手を離すと冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して理斗に手渡す。
「はい、水」
理斗の発情期は九月に終わり、次は来月の十二月だ。普段から抑制剤を欠かさず徹底的に発情期を管理している理斗は今夜発情することはない。アルファのフェロモンにあてられれば発情期でなくてもオメガが発情することはある。しかし、今にも気をうしないそうなほどガチガチに緊張している理斗が発情する確率は低いだろう。
それを見越した理真はオメガの不妊治療などに用いられる発情誘発剤を用意していた。理斗に意図的かつ確実に発情期を引き起こさせようとしている。
「待ってくれ。発情期じゃなくても、あの、ああいうことはできるだろう?」
「でも俺は発情期の理斗を抱いてうなじを噛みたいから」
絶句する理斗に理真はテーブルの上の薬までを渡して飲むようにうながした。
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