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「……ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど。もしかして、あの手紙……読んでくれてないの?」
「あの手紙?」
「留学する前に部屋にチョコレートと一緒に置いていた手紙よ」
「……あんなもの、読まずに捨てたよ。決まってるだろ?君が相談も無しに急に居なくなって、どれ程俺が傷ついたかなんて知らないだろ?」
「……それはごめん。悪かったと思ってる。でも、あなたに相談したら私行きたくないって思っちゃいそうで……」
「他の奴らから聞かされた俺の気持ちにもなってみろよ。飛行場行かないのか?って、見送りに行かないのか?ってあの日何人に言われたと思う?彼氏が知らないなんて、バカだよな。そもそもお前に彼氏と思われていたかも分からないけれど」
「だから、それを手紙に」
「もう!もう済んだ話だ。思い出したくもない。ぶり返すのはよそう。このイベントが終わればまた、俺はお前を憎むだけだ」
互いに再び恋愛等と余計な感情など生み出したくはない。
秋人は言葉を吐き捨てると踵を返した。
「バカっ!秋人のバカ!何で『kumonishiki』って名付けたかも分からない?私たちみたいだねって言ったのも忘れちゃった?」
クモニシキ……。
忘れた?
そんな事話した記憶など……そう思った瞬間思い出した。
『雲錦』正確にはウンキンと呼び、陶磁器の絵柄を表す。
紅葉と桜とが描かれていて、彼女がそれを見てまるで私達みたいねと笑っていた。
何度正しい呼び名を教えても彼女はこっちの方が素敵よと言ってずっと『クモニシキ』と呼んでいて、いつしか秋人もその模様をそう呼ぶようになっていた。
「……言ったろ?もう過去の事だ。これが終わればまた俺にとっちゃ敵なんだって」
振り向くな。
自分に言い聞かせて家へと帰る。
何も考えるな、何かを考えれば彼女へと辿り着いてしまう。
一歩足を踏み出す度に唱えた。
何も考えるなと。
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