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「そっちの爪の方が綺麗じゃん」
そう言って君の指はテラコッタ色のマグに添えられる。
離れていく指先を物欲しげに見ないように、私も自分のマグカップを握る。
君のマグにはブラックコーヒー。
私のマグには甘いココア。
「自分の爪なんかつまんないよ」
私が言うと、君の顔は苦笑いをした。
「わかんないなあ。その指先フェチ」
「私がわかればいいよ。あんたの指先の素晴らしさなんて」
本当好きすぎてチョコに浸して舐めまわしたい。
ずーっと君を独り占めできたらいいのに。
なんて冗談だよ、冗談。
声に出さずに心の中で茶化して甘いココアをすする。
「悪いねデート前に寄ってもらっちゃって」
私が言うと少しクールな君の顔がすっと微笑んだ。
「だってケーキ焼いたって言うからさ。絶対美味しいに決まってるから来ちゃうよね」
「胃袋作戦成功ってことか」
「それについては参りました。でもさ、友達なんかじゃなくて好きな人にでも作ってあげればいいのに。そんな自信ない?好きって言ってた会社の人、もう片思い長いんでしょ?」
ガトーショコラを焼いたと言って数時間前君を部屋へ呼び出した。
君はコーヒーをすすって、その指先でフォークを弄ぶ。
意味もなさそうな顔をして私の目はその指先を追う。
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