ゆびさきで溶かす

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「そろそろ出なくて大丈夫?」  わざわざ言って君を見る。  そうだね、と答えた君はダスティブルーのコートを羽織りチョコの紙袋を手に持った。    本当は彼氏のところへなんて行ってほしくない。  いつもショートだった君の髪は今は肩につくほどになった。  昔君は言ってたよね、結婚式を挙げるときは長く伸ばして結いたいって。  その髪はもしかしてそういうことなの? 「寒いから気をつけてね」  玄関の君を引き止めてその指先を握ってみた。  温かい指先が握り返してくることはない。  嫌がってもくれないのがなんだか無性に悔しくて、ぎゅっとその手を引っ張って胸に顔を埋めてやる。  君はまた何も言わずに、黙って私を受け止めていた。  幼い頃からそうしてきたから君は私を拒絶しない。  だけど代わりに君の方から私に触れることもない。  趣味のいい香水の匂いと嗅ぎ慣れた君の香りに切ないくらいほっとする。 「指だけここに置いてってよ」  行かないで、と言うかわりに物騒な言葉が口をつく。
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