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「ヤクザかい」
君はぷっと吹き出して、私の顔はむくれていく。
「私の指の何がいいんだか」
「あんたの指は完璧だよ」
「指は置いていけないけどこれ、あげるからいい子にしてて?」
君はカバンから小さな箱を取り出して私の手のひらに乗せた。
「ケーキのお礼だから」
華やかな花柄のオレンジの小箱。
私はなかなか単純だからそれだけで気持ちがふわふわした。
「まあこれで許してやろう!」
不機嫌顔で答えると面倒臭いんだから、と君は笑う。
そのスカート姿を見るようになったのも最近だ。
色気づいちゃって、なんてからかうことも私にはできない。
玄関ドアが閉まってから私は小箱を抱きしめた。
微妙な距離も知らないふりも少しの嘘も
君と私はずっとこのまま続けていくんだろう。
だけど今ここに君はいないから、素直にバレンタインを喜ぼう。
今年も君はチョコをくれた。
Thank youのカードと一緒に。
私は好きと言いつづけて
君はありがとうと言いつづける。
それが私たちの関係だから。
それでも君が好きだから。
こんな日なのに。
この日が好きだと、いつか誰かに話せたなら。
その人は私を笑うだろうか。
「‥にが…」
最後に食べたひとかけらはとてもビターな味がした。
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