おきなさい わたしのかわいいぼうや

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 ではそれはどういう仮想だったかというと、ごく一般的な家庭だった。 母親とふたり、なに不自由なく遊んで暮らす生活。 逆に理想的と言ってもいい。 現実には拘束されていても、女児はその仮想空間内で幸せに過ごしていた。 「『ママは優しかった』とか言われてもね、『それはそういう風に設定されたボットだ』としか言えないよ。 現実じゃないのさ。 今ココでキミが感じるものが現実だ」  少し棘のある物言いに対面で俯く子供は椅子の座面をギュッと強く握った。 腕を突っ張ると尖った肩が突き出て、薄い体つきが強調される。 押せばフラつきかねないほど脆そうだ。  今度の語りかけは優しいものになった。 「ずっと仮想しか知らなかったんだから、混乱するのはわかる。 でもこれが現実なんだ。 ゆっくり慣れていけばいい。 キミが社会に出て自立するまで、きちんとサポートするから」  しばしの沈黙ののち、子供は耐えかねるるようにして、固く閉じていた唇を開いた。 「――んこ」 「うん?」  空気を肺一杯に溜め、そして吐き出した少女の、絶叫が小さな部屋に響く。 「ちんこ返せっ!」  被害女児の名はアキラ・シラユキ。 彼女は仮想空間では男児として過ごしていた。 現実に十五歳の少女だが、当人は自分を十歳男児と思い込んでいる。
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