おきなさい わたしのかわいいぼうや

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「納得できないの、そこかい……」  彼女が目覚めて以来ずっと相手をしてきた担当保護官は、いっそのこと机上の画面に浮かんでいるよりも過激な罵声を浴びせる選択肢について考えた。  ***  被害女児を預かってから一か月の間、何度も言い聞かせたというのに「ピーター・パンよりはウェンディのほうが近い」という事実をどうしても受け入れてくれない。 「ボクは今までちんこぶら下げて生きてきたんだ。 それをいきなり取り上げられて、納得なんてできないよ」 「女の子が『ちんこ』とか言わない」 「ぶら下げてたって話をしてるんだ。 女じゃない!  ちんこですけど?  ずっとちんこでやらせてもらってますけども?」 「一度たりとも、なんにも、ぶら下がってない」  虐待を受けていた当人にそれらしい悲壮感がない理由は当人にその意識がないせいだ。 一般的な虐待事件において、加害者が家族である場合にも被害児童が「相手は悪くない。 本当は優しい」と思い込む例は少なくない。 だが本件に関してはまったく事情は異なる。  なにしろ彼女の精神は仮想空間において自由であり、架空のボットながら母親と過ごした記憶を有している。 その出来事がすべて嘘だったと言われても、すんなり受け入れられるはずはなかった。 「いいから元に戻してよ。 ログアウトしたいのにさっきからできないんだ。 ここのサーバーの管理者が権限で封じてるんでしょ?  スグやめさせて」
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