7人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあログアウトは一旦置いといて、このアバターだけでも変えさせてくれない?
今まだチュートリアルなんでしょ?
メニュー開かせてよ。
おーい!
もうずっとこの部屋じゃん、進行遅いよゲームマスター!」
天井に向かって呼びかける当人に悲劇性は少しも表れないとしても、彼女は間違いなく被害児童である。
逃避が必要なほど辛い現実だとしても、まずは受け入れなければ人生のこれからはない。
そのお膳立てをするのが自分の役割なのだと、保護官は目的を改めて確認する。
机の上の端末を撫でて新たな書面を呼び出し、続きを始める。
「ログを確認したけどキミは――いや、仮想空間でのキミのアバターは本来女の子だったんだよ。
それが接続継続時間4年目、五才のときに変わった。
原因は多分、キミ自身がそれを望んだからだ。
『男の子になりたい』ってね」
それはよくあることと保護官は理解している。
子供の頃、異性が得をしているように見えたことくらい誰にだってあるはずだ。
「男の子になれたら」
「女の子だったら」
現実にはどうしようもない妄想が、仮想でならどうとでもなる。
そして彼女、アキラ・シラユキにとっては仮想こそが現実だった。
「キミがいたサーバーは君の願望をある程度自動的に反映するよう設定されていた。
だから性別も変更できたんだ。
公共でもない個人用のサーバー内なら、アバターに制限をかけないことは珍しくはない。
一般的なごっこ遊びだよ」
すべてが自由になる世界は楽園そのものに化けられる。
だがそれは幻想だ。
必ず醒めなければいけない幻想。
最初のコメントを投稿しよう!