ちから:255 の奔走

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ちから:255 の奔走

「おっかしいなー? 具合悪くなったんなら絶対ココだと思ったのに」  狙いが空振りに終わった保健室を出て、ルーシー・アファールは首を傾げる。 体育の授業が終わっても運動着のまま、後ろでまとめ上げた少し癖のある髪もそのままにしている。 「こんなとき電脳に詳しければ、すぐ居場所を突き止められるんだろうけど……」  生憎と電脳歴700時間の彼女にそれは叶わない。 集中しなければ電脳深度10%にも達せず、オープンな情報にアクセスするにも苦労する有様だ。 そのせいで食堂ではひどい失態を演じもした。 「『アンタのせいじゃないよ』って言って、ちゃんと謝らないと…… アタシが普通に〝デキる子〟なら、あのくらいなんともなかったんだろうし」  ルーシーが捜しているのは体育の授業中いなくなったアキラだ。  この行動はアキラが被虐待児であることからくる同情や共感ではない。 当人すら失敗と認めるあの痛々しい自己紹介こそが理由だ。 アキラとルーシーは同じクラスではないものの、「おかしな転校生が来た」と噂話が流れる中でそれを聞いていた。 『やあみんな! ボクの名前はアキラ・シラユキ。 前にいた所では人気者だったし、みんなもすぐボクと仲良くなれるよ!  とりあえず目標は友達百人。 君たちがNPCでも、ちゃんと対等に扱うから安心してね!』  受けた印象が「うわぁ」であることについては他の生徒と変わりはないが、友達を求める意欲は孤立していたルーシーにとって都合がよかった。 アキラの行動の結果孤立が解消された今でも気持ちは変わっていない。 「アタシ……アイツの友達になりたい。百人も欲しいなら、アタシなんかでも入れてくれるよね」  派手な身体能力に反してルーシーの自己評価は低い。自分が社会にとって異分子である ことを理解しているからだ。  自然の中で家族と暮らしていたルーシーだったが、それが可能なのは科学文明が土台としてあるからだ。山奥に籠っても社会と取引をする機会は必ずある。 調味料や服飾品、特に医療については頼らざるを得ない。 それでいて社会から独立していると考えるのは傲慢だと、ルーシーは密かに感じていた。
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