それはお刺身のつまのように

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______決して主役にはなれない。 だけど誰かに一花添えることはできる。 『おじいちゃんはね、そういう自分が嫌いじゃないんだよ』 私の祖父が、生前よく言っていた言葉だ。 そういう自分が好き、ではなくて、嫌いじゃない、と言うところがポイントだ。 どこまでも謙虚で、だけど粋のある、ちょっぴりお茶目なおじいちゃんが大好きだった。 役者一筋60年。 しかし一度も主役になることがないままこの世を去った俳優、藤田 純一郎。 伝説の名脇役と呼ばれ、数々の映画やドラマに花を添えてきた。 助演男優賞も何度獲ったかわからない。 彼が出演する作品は間違いない、というフジジュンブランドなるものが存在していた。 私は今でもそんな彼(おじいちゃん)の大ファンで、出演した作品は全てコレクションしてあるし、昔の作品観たさにリサイクルショップでビデオデッキを買ったくらいだ。 画質は悪いけれど、それも味がある。 何より若い頃のおじいちゃんの男前っぷりが半端ではない。 若手時代の頃は、出番は非常に少ない。台詞は二つ三つ。 決して誰の邪魔もしない。けれど、おじいちゃんが出ると、雰囲気がグッと出る。 悲しいシーンはより悲壮感に包まれ、感動するシーンは、画面からほのかにあたたかい光が溢れるようだ。 そしてなにより、主役が一層輝く。 おじいちゃんは天性の名脇役。 まるで刺身のつまのように。 根っからの名脇役。 主役を引き立たせ、邪魔をせず、だけどなくてはならない存在。 私はそんな彼の生きざまを心から尊敬し、憧憬の念を抱いて生きてきた。
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