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「……これでよし」
早朝、まだ誰も登校していない校舎の中庭で、タオルで汗を拭いながら呟いた。
どこかの不届きものが散らかしたゴミを拾い集めて、ついでに花壇の雑草なんかも抜いていたら、思ったよりも時間がかかってしまった。
しかし綺麗になった中庭を眺めて、充足感が込み上げる。
寝そべりたくなるような、青々と繁った芝生と、色とりどりの季節の花達。
ロマンチックな雰囲気を醸し出す白いベンチ。
ここは、この高校で代々伝わる恋人達の憩いの場所だ。
カップルになると、お昼休みの時間、この中庭で過ごすのがステータスらしい。
そんな場所に縁もない私が、何故朝っぱらからいるのかというと、もちろん脇役活動の為だ。
ゴミで散らかった場所で囁く愛の言葉なんて、どんなに甘くてもどこか生臭い。
素敵なドラマ、素敵なシーンは、素敵な舞台、素敵な環境があってこそ。
そんな環境を作るのは私達脇役の仕事だ。
……それがフジジュンスタイル。ぞくぞくするぜ。
脇役万歳!裏方万歳!影武者(?)万歳!
誰かの恋に一花添えられれば本望だ。
おっと、もうすぐ登校の時間だ。皆が来る前に、制服に着替えないと。
早足でごみ袋を運んでいると、ふと自動販売機横に置いてあるゴミ箱が目に入った。
空き缶で溢れたゴミ箱の近くには、缶やペットボトルが転がっていて、無惨な光景だ。
ちょっとちょっと、なんでこんなに汚いのに放置できるかなぁ。
隣は体育館裏の隠れカベドンスポットではないか。
こんなに散らかってたら、カベドンに集中できないでしょうが!
「まったくもう。そして分別ちゃんとセネガル!」
誰も見ていないことをいいことに、ゴミを拾いながら独り言を呟いていると、突然背後から笑い声が響いた。
……まずい。誰かに見られてしまった。
脇役活動は人に見られちゃおしまいなのだ。
注目されてしまっては、脇役の美学が……。
「セネガルって!めっちゃツボったわ!」
「…………………」
私の前に現れたのは、強烈な光を放ち微笑んでいる美少年だった。
その高貴で麗しい風貌に泡を吹きそうになる。
これ、出会っちゃいけないやつや。
一番脇役が絡んじゃいけないやつ!
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