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プロローグ
三好育子は、二十五歳になる会社員だ。
広告会社に憧れを抱いて就職するも、若いうちは下積みで企画など担当させてもらえない。入社三年目。育子は、その“下積み”に早くも辟易していた。
(もう。終電がないなあ……)
脳天を突き上げるような目眩。ふらついて電柱に手をついた。酔った身体では、パンプスの踵の五センチのヒールが辛い。
歩行者信号が青になったので、とりあえず歩くが、行く宛てはない。
銀座から青山の下宿まで歩いていけないこともないが、千鳥足にヒールの組み合わせで長くは歩けない。
(くそう。課長の奴。体育会系のノリで飲ませやがって)
心の中で悪態をつく。
育子が辟易していたのは、社内に蔓延する体育会系のノリだ。女性社員にお茶汲みをさせ、仕事が終わった後も飲み会に付き合わす。そこで上司の武勇伝だとか、ろくでもない話を聞かされて、お酒を注がされ、飲まされる。挙げ句得意先のご機嫌取りにまで女性社員を使うのだから、たまったものじゃない。
育子は小柄で、目がぱっちりと大きい愛嬌のある顔立ちで、男受けが良い容姿だった。それが災いしてか、連日のように夜遅くまで連れ回される。
入社してから三年間、ずっとそう。
やさぐれた心は、彼女を繁華街へと誘った。スーツを着た小奇麗な男が、厚かましく彼女にすり寄ってくる。ホストクラブの客引きだ。
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