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利人からの聴取を終えた後、清治は応接室から自分のデスクへと戻った。手帖に記した見聞録を、ふんぞり返って眺めていると、ひとりの刑事が訪ねて来た。
利人から育子の捜索願が出されたことを伝えた彼は、事件現場である怜奈の下宿や彼女の家族などを洗っていた。
「ご家族立会いのもと、遺留品を整理していたのですが、その中に三好さんとの文通がありました。とても大切に保管されていたようでして」
アナログ気質の清治のスラックスにさえスマートフォンが入っているというのに、育子と怜奈は文を通わせていたというのか。清治は情緒があるものだと半ば感心した。
他人の恋文を覗き見る趣味はないが、清治はその届いたときと何ら変わらないであろう綺麗な封筒を開いた。
一通目。
この前は、素敵な指輪をありがとうございます。
しかし、ピンキーリングというものは、女々しくとられてしまうもので、お店ではつけられません。それに私は、成就してほしい恋などという、おこがましい物は持ち合わせてはおりません。私にはこの指輪をはめることはできませんが、誠に素敵なもったいない贈り物でございます。大切にお取り置きいたします。
続いて、二通目。
お元気でしょうか。このところお店へ顔を出すことも無くなり、寂しく思っております。あなたのいない炬燵はやけに広く、隙間が空いているようで寒く思えます。あなたからもらったピンキーリングに想いを馳せながら、客を相手しております。ですが、どんな話の面白い客よりも、あなたの声が聞きたくございます。
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