4人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、三通目。
育子さんへ。ご入籍されたとのこと、誠におめでとうございます。結婚式はいつお上げになるのでしょうか。私は遠くから見守ることといたします。あなたのことです。きっと綺麗な花嫁姿でございましょう。
寒さがより一層厳しくなってまいりました。この季節になると、昨年の箱根を思い出します。もし、我儘が叶うならば、最後の逢瀬を望みます。私は変わらず、あのマンションにひとりで住んでおります。最後にもう一度、あの頃のように、炬燵の中で交わりとうございます。
それが怜奈が生前、育子に宛てた最後の手紙だった。
もし、育子が怜奈を殺したとすればと清治は考えを巡らせていた。――育子は、怜奈の慕情を疎ましく思っていたのか。だが、そう考えるとちぐはぐな点が生ずる。それに、肝心の育子の行方に近づけていない。
あの真っ赤な手形と切り取られた小指が、清治の脳裏に過ぎった。あれは、怜奈を疎んでいたというよりも――と思慮を巡らしていたところ、“箱根”という地名が目に留まった。育子が勤めていた広告会社で、男性社員が漏らしていた。「去年のこの時期、育子は箱根に行っていた」と。
清治は直感した。育子は、箱根に向かったのだ。
「遺留品を調べろ。二人が箱根に行った時のものがあるはずだ」
最初のコメントを投稿しよう!