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エピローグ
箱根にある温泉宿の一室。一人で泊まるにはいささか広すぎる和室を、吉田育子は借りていた。温泉に入るわけでもなく、育子は窓の外をただ物憂げに眺めていた。
育子はハンドバッグから錦に包まれた小箱を取り出した。
饐えた匂いが鼻を刺す。一瞬顔を歪めるが、慈しむようにその箱を撫でて、ため息をついた。
「麗爾、あなたと箱根に着いて二日が経ったねえ。ごめんなさい、あなたを腐らせてしまって。まだ、覚悟が出来ていないの」
育子は、小箱の中の何かに語り掛けているようだった。
ふと、旅館の内線が鳴った。
「はい、もしもし――」
育子は落ち着いた声で応対した。やがて、電話の向こう側から聞こえてきた声に、両の肩を落とすのであった。
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