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「私は、会いに行ってはいけないと思いながらも、麗爾に会ってしまいました。交じり合ってやはり気づいてしまったのです。――私は、麗爾を愛していたんだと」
瞳を潤ませ、肩を上下させた。
「麗爾は、それが聞けて幸せだと。でも私はそれでは足りませんでした。このまま帰っても私には、本当に愛している人との生活などありませんから。心中しようと言ったのです。麗爾は反対しました。私を夫との真っ当な生活へと帰そうとしました。私はそれが悔しくて、悔しくて――」
「あなたはここで、死ぬ気だったんですね」
清治の問いに、育子はこくりと頷いた。
「でも、間に合いませんでした。私は結局、覚悟がつかず……、麗爾の形見も変わり果ててしまいました。もっと早くに決心していれば――」
「それは違うでしょう」
煙草を灰皿に擦り付けて消し、鞄から指輪ケースを取り出した。
「あなたが有田さんに渡したピンキーリングです。炬燵の天板の下に隠してありました。あなたと愛を育んだ所ですから、そこに因んだのでしょう。これを有田さんは、最後まで小指にはめませんでした。ピンキーリングは、恋を叶える力があるとされます。それを拒んだ有田さんの想いをあなたは分からないのですか」
育子の頬に一筋の川が流れた。
「あなたが有田さんを殺すことで守ったものは、自分の中の都合のいい有田さん。そうでしょう。あなたもそれを分かっているから、死ねなかったんじゃないですか」
諭す清治に、育子はすすり泣く以外の術を失った。
彼女の指紋は、怜奈の頬の手形から画像解析で得たものと一致した。あれは、怜奈を慈しんで撫でたときに付いたものだった。凶器は、怜奈の部屋から無くなっていたステンレス製の包丁。育子は、それさえも慈しむように鞄の中に持っていたのだ。
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