プロローグ

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     ***  薄汚い雑居ビルに、落ち着いた雰囲気の木製のドアが不釣り合いにはめ込まれている。育子が訪ねたのは、「ロザリンド」という店だ。中は落ち着いた雰囲気のバーだった。“女性の方が女性をおもてなしする”とは聞いたが、中には男性客もいる。そして、店員も男性ばかりに見えた。育子は拍子抜けしたが、目を凝らすと顔立ちや肩幅、腰回りなどにどこか違和感がある。 「いらっしゃいませ」  店員に声をかけられて驚いた。低く作って出した女性の声であったのだ。しかし、それを発しているのは上背のある端正な顔立ちをした男。男装した女性が客をもてなすという趣向の店だったのだ。  案内された席に着く。妙な緊張感で育子の背筋はピンと伸びた。  しばらくすると、先ほど声をかけてきた店員が隣に座った。源氏名は、麗爾(れいじ)という。目鼻立ちがくっきりとしていて背が高いので、華奢な腰回りと喉仏が出ていないことに注目しなければ、女性とは気づかれないようであった。  育子はおどおどしながら、勧められるがままにロゼを頼んだ。麗爾のアルトボイスが店の中に響いた。  それから育子は閉店時間まで談笑した。麗爾は他の店員よりもけばけばしい男装をしておらず、清潔さが感じられた。なおかつ、育子の話す愚痴や趣味の話の受け答えが、非常に気持ちの良いものだった。  育子は、この店に入り浸るようになった。  それから育子と麗爾が、“性”的な関係を持つのに時間はかからなかった。
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