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変死体
その変死体はマンションの一室で見つかった。
まだ腐敗の進んでいない綺麗な身体は素っ裸。首筋に裂傷があり、どくどくと血が流れ出したことを床にできた血だまりが現わしている。頬には真っ赤な手形が。
大きさからして、女性の手か。刑事、松本清治は、眉間に皺を寄らせた。そしてもうひとつ、異様なのは、右手の小指が綺麗に切り取られていたことだ。
遺体は炬燵に下半身が入っている。殺されたのは、有田怜奈、二十六歳。男装したホステスが接客をするバア、ロザリンドでそこそこの集客力を持っていたという。この情報を事件現場を発見した晃子――ロザリンドの男装ホステスの一人――から清治は聞いた。
「顔の手形から指紋採取ができそうだな」
乾いた血の手形は、血判のごとく指紋がしっかりと浮き上がっていた。
「遺体に当てないように、炬燵を動かせ」
現場の保存と、遺体を鑑識に移すため遺体が取っている姿勢を変わらずテーピングで残す必要がある。
炬燵の天板を外し、血のこびりついた布団も外した。脚のついた熱源とともに、遺体の下半身も露になった。下腹部がうっすらと変色している。だが、それよりもあるものが清治の目についた。熱源の裏と天板の間の空間に指輪を入れるケースがあったのだ。中を開けると随分と小さな指輪が入っていた。――女性の細い指でもこれは入らないじゃないのか、いいや、小指ならば入るかもしれないと清治は考えた。
「小指にはめる指輪があるのか」
「ピンキーリングというやつじゃないですかね」
刑事が放った言葉に清治は、眉をぴくりと動かす。
ピンキーリング、それを小指にはめた者に、恋愛運を呼び寄せるというおまじないだそう。事件と直接の関連があるのかどうかは分からないが、清治はこれを証拠品のひとつとして取り置いた。見つかった場所が、どこか意味深だったからだ。
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