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遺体は司法解剖に移された。
現場調査の後、清治は被害者の身辺調査のため、ロザリンドを訪れていた。今日は流石に店を開けないそうだが、従業員は都合がつくものは皆、集められていた。本来の接客ではないため、男装ではない普段着を着用している者も多い。
晃子は、エクステをつけて髪を伸ばしている。
「怜奈は、この店で麗爾という源氏名で働いていました。私などは顔が女顔ですから、ばりっとした化粧をするのですが、彼女は堀が深い美人な顔立ちですから、薄化粧で店に出ていたのです。それが、清潔感があっていいと好評をもらっていて、人気のホステスでした。上背もありますから、衣装も様になっていましたし」
晃子は、玲奈の働きぶりを懐かしみながら話した。
清治は紫煙をくゆらせて、渋い顔をしながら聞いていた。
「特に怜奈を指名していた客はいないのですか」
「そうね、三好さんという人がよく来てたわ。三好さんは必ず怜奈、いえ、麗爾を指名するのです。複数人指名することもありませんし、麗爾が他の客の相手をしていると聞くと、帰ってしまうこともありました。また、彼女が来店すると、麗爾も可能ならば彼女のところに席を移すのです。ですが、それも四カ月前までの話ですね」
この界隈で捜査をしていると、身辺調査で水商売の店を訪ねることは少なくない。ある客の専属のホステスなどと言うのはよく聞く話だ。
「あまり言ってはいけないことかもしれませんが――」
ホステスのひとりが申し訳なさげに口を開いた。
なんでも怜奈とその三好さんという女性客が、普段着で並んで歩いているところを見かけたことがあると。清治の黒革の手帖の上で、万年筆が踊った。
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