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失踪
清治の捜査対象は、すぐさま三好育子の身辺に移った。
育子の勤める広告会社は、新橋にあった。インターネット上の広告を取り扱っている会社だ。育子は二年前までは、営業課だったが企画課に異動された。本人もこの異動を大変に喜んでいたようだった。
「もともとは、企画課の志望だったということですか」
清治の質問に、応対していた男性社員は頷いた。
歳のころは三十代前半。育子の直属の上司なのだという。
「ええ。バナーデザインや広告レイアウトを担当したいと、就職活動での面接時から言っておりました」
「そうですか、三好さんの身辺で変わったことはございませんでしたか」
「ああ。伝え忘れておりました。ちょうど先日入籍されて、名字が吉田に変わったのですよ」
清治はぴくりと反応した。前のめりになり、ソファの背もたれと背の間が開いた。
「そうなのですか」
「ええ。親元が用意したお見合いで決まったそうです」
男性社員はにこやかに話すが、笑顔が引きつっている。
清治も、「三好さんがまだ犯人と決まったわけではありません」と断りを入れたが、本人のただならぬ雰囲気が、男性社員を圧迫していた。
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