オコタクンだから

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オコタクンだから

真っ赤に光るこたつの中で、下に敷いてあるキルティングマットがモコモコっと波打ち始めた。波はゆっくりと、足の先から首のあたりまで一周すると、足先で4つの突起ができた。4つの突起は真子のふくらはぎを両側から包んでいった。 「準備完了!快適モードを開始します。」 そう言うと、突起はぶるぶると動いて、ふくらはぎを両側から揉んでいき、うつ伏せに寝ている真子の肩から背中を肘のようなアームがグイグイと伸ばし始め、頭の網目は小刻みに振動するように動いて頭皮をつかみ、足の先から頭の先まで全身マッサージを始めた。 加えて、こたつ布団の中からは乾燥防止の蒸気が発せられ、アロマオイルの良い香りが真子の鼻をくすぐる。 「真子さま、本日の香りはラベンダーですよ。ラベンダーにはリラックス効果とともに良い眠りに誘ってくれる効果がありますから、ゆったりしてくださいね。」 身体チェックは主人がこたつで眠ってしまった時にだけ作動するように、各家庭に納品した時から設定してある。そのため、オコタクンの動作を真子が目にする機会は、ほぼない。 たとえ、動作中はその活躍ぶりをしっかりと見てもらえないとしても、オコタクンは主人である真子の疲労を回復させることができて、嬉しかった。 お盆も年末年始もないサービス業で働く、頑張る真子の姿を見ていたからだ。 「いつも世間の皆様がお休みしている時に働いて、お友達とも遊べなくって・・・お若いのにお辛いでしょう。ワタクシが影で支えておりますから、ご安心ください!」 オコタクンが赤い光の中で悶々とそんなことを考えていると、ついアームにも力が入ってしまった。 「うーん。」 あわや、真子が寝返りを打ってしまった。 ドキーン! 油断していたところでびっくりしたオコタクンは「わっ!」と声を出しそうになったのを堪え、すべての動作をピタッと一時停止した。 真子はうんうんと言いながら、寝返りを何度か打って、最初のうつぶせに戻ってまた眠りについた。 3分程度であったであろうか、完全に停止していたオコタクンは、その後寝返りを打たなくなった真子の様子を見て、またアームを稼働しマッサージを続けた。 「動作中は余計なことを考えてはいけないな。」オコタクンは自分に厳しく主人に優しくという自身の存在意義を全うすることを、改めてこたつ特有の熱い心に強く思った。
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