9人が本棚に入れています
本棚に追加
『そんなにチョコもろおて、ほんまあんたは神様から愛される容姿してはるなあ』
クスクスと笑う、愛らしい声。鈴が鳴ってるのかと、木の上を見上げたら真っ赤な着物を着た女の子が俺を見下ろしていた。
『もろおてもええよ。好きなだけもろおて、その手に掻き抱けばええよ。けどな、一個も落としたらいけへんよ。受け取らんと拒否したら許さへんよ』
そう言いつつ、その美しい女の子は泣いた。
泣かせたのは俺ではない。けれど、その罪はきっと俺が償わなければいけない。
それに、チョコは欲しい。滅茶苦茶欲しい。土下座してでも欲しい。
初めて彼女がそこにいると気づいた日の夢。
俺が毎朝起きるのを、あの神社のあの埃臭い祠の中から感じてくれている人がいるんだ。
その前に、伝えておきたいことがある。
日本で初めてチョコレートを食べたのは、長崎の人気遊女で、客からの差し入れの記録に『しょこらあと』と乗っている文献が一番古いんじゃないかと言われている。
なぜ、全く今関係ない話をしているかというと、これから馬鹿みたいな話をするから少しだけ蘊蓄を語っておかないと、俺のことをあほだと思うからだ。
両足を同時に踏み出そうとしたらジャンプしかできないような、馬鹿で深い話。
全く関係ないことを考えてしまうのは、目の前の問題から逃げているからでもある。
「……ねえ、何か違うことを考えて現実逃避してるでしょ?」
最初のコメントを投稿しよう!