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 自分の名前を書くときにはいつも緊張する。だが、その時は特に緊張していた。 「滝村和彦」  特にどうということのない名前だ。平凡すぎもしないし、珍しくもない。一クラスに一人はいそうな名前と、知り合いにはいそうな苗字の組み合わせ。 若くても年取っていてもおかしくない。かといって性別がわからないとまではいかない。  和彦は高校一年、入学したてだった。どこに行っても自己紹介をしなくてはいけない時期と立場だ。  同じ中学から進学した生徒は一人もいない。だからなおさら不安で、名乗るたびに緊張した。名乗るたびにお返しにさまざまな名前が押し寄せて、頭の中を駆け巡ってなおさら混乱と緊張に拍車をかけた。  若村千晶の名前を新入生名簿に見つけた時は、もしやと思った。見覚えのある名前。  和彦が小学三年で転校するまで、よく一緒に遊んでいた女の子の名前。和彦は保険会社に勤める父についてあちこち転々として、また父が生まれたこの地に戻ってきたのだったが、あの子がずっと地元で中学、高校と進学したのだったら、また同じ高校に居合わせてもおかしくない。     
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