プロローグ

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プロローグ

獣の匂いがした。 降り積もった木の葉が地の湿り気を受けて崩れ始めた匂いに混ざり、獣の生臭い息が風に紛れて森の木々の間を漂っている。 どれほど薄れているようでも、男にとっては物心ついて以来のお馴染みの匂いを嗅ぎつけるのは容易かった。泥の中でのたうちまわるのが好きな獣は、乾いた泥の匂いを放っている。 おそらく、獣の方はは男がまとった自分の仲間の毛皮を通して、汗の匂いを嗅ぎとっているだろう。 男は仲間からはオイと呼ばれた。なぜそう呼ばれたかは、わからない。親はとうに亡くなっていたし、単なる呼びかけがそのまま名前らしきものになったのかもしれない。それも仲間といればそうも呼ばれたろうが、一人きりで獲物を追っていると、名前などはどうでもよくなっていた。 オイは匂いの元がどれくらい離れたところにあるか、確めた。 獣は息づかいも足音もさせていない。 しかし、オイは獣の匂いを嗅ぎとりつつ獣の中で響く鼓動を聞き取り、半ばその心は体を離れ、自分と獣を含むこの一帯のを頭上から見下ろしているいるかのように見下ろし、このあたりの森の姿を頭に浮かべながら、じりじりとどう獣を罠へと追い込むか、全身で探り続ける。     
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