ー 1 ー

2/2
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
今年もまた厄月(やくづき)がやってきた。 宏介(こうすけ)は、煌びやかなウインドウが途切れない真冬の街を、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。少し前屈みに、猫背気味に歩く。目線を自分のブーツのつま先に向け、一度ポケットから右手を出し、首のマフラーを口元まで上げた。 このシーズンになると、どこの街も全てが甘ったるい匂いで包まれ、デパートどころかスーパーやコンビニさえも、華やかなキラキラに染まる。チョコレートの山だ。 宏介は、今でも忘れる事のできない後味の悪いバレンタインデーが思い出されて、ため息を吐いては視線を落としながら歩くのだ。 厄月(やくづき) 宏介は、二月をこう呼んでいた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!