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今年もまた厄月がやってきた。
宏介は、煌びやかなウインドウが途切れない真冬の街を、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。少し前屈みに、猫背気味に歩く。目線を自分のブーツのつま先に向け、一度ポケットから右手を出し、首のマフラーを口元まで上げた。
このシーズンになると、どこの街も全てが甘ったるい匂いで包まれ、デパートどころかスーパーやコンビニさえも、華やかなキラキラに染まる。チョコレートの山だ。
宏介は、今でも忘れる事のできない後味の悪いバレンタインデーが思い出されて、ため息を吐いては視線を落としながら歩くのだ。
厄月
宏介は、二月をこう呼んでいた。
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