胸の穴

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 最近、愛利がよそよそしい。  というよりは、避けられている。  一条夏樹はそれに気づいたが、無理もないと諦めていた。  暦は九月に変わり、残暑の厳しい日がつづいている。本格的な秋がやってくるのはいつのことだろうと、連日三十度を超える気温計を見てはため息の出る思いだ。  今日も暑くなりそうだと、鬼狩り支部の入っているビルに足を踏み入れた夏樹は覚悟した。夏樹たち実行部の部屋がある四階まで、一気に階段で駆け上がる。鬼と戦う戦闘員は、基本このビルの中では階段で移動していた。  四階にたどり着くと、廊下の少し先を歩いている少女の背中が見えた。水色のワンピースを身にまとい、白いトートバッグを肩にかけている。 「愛利」  名前を呼ぶと、彼女は足を止めた。声で夏樹とわかっただろう。しかし、振り返ってはくれない。 「あの、おはよう」  夏樹がぎこちなくあいさつすると、金子愛利はおはようという声だけを廊下に残して、足早に配属先の医務室へと入ってしまった。  かれこれ、二週間はこんな感じだ。  二週間ほど前。  夏樹たちは除霊作戦へと駆り出された。ちょっとした財政難に陥っていた支部を立て直すために、支部長が引き受けた副業である。
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