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すると頭の上から「くすり」と笑う声。
振り仰ぐと、烏帽子の人がにこやかな表情でゆらを見下ろしていた。
「初めまして。鈴がずいぶんお世話になったようで、ありがとうございました」
「え? あっ、もしかして、鈴ちゃんの旦さん! ……ですか? いえ、お世話になったのはわたしの方で。ほんとに、なんとお礼を言ったらいいか……」
にこにこと相好を崩す烏帽子の人は「いかにも」と頷いた。
「嵯峨大膳と申します。以後お見知りおきを、ゆらちゃん」
飄々として掴みどころがない。けれど畏怖の念を感じるほどに、美しく清廉な空気を纏った人だった。
これまで出会ったどんな人とも違う。その空気は、人というよりも神や仏に感じるものに近いように思えた。
この人は自分と同じように息をしているのだろうか。
そんな間抜けなことを思って、ゆらは我知らず嵯峨の口元に手を伸ばしていた。
嵯峨は伸びてきたその手をやんわりと握ると、顔を近付け、またくすりと笑った。その笑みすら神々しく、ゆらはぼうっとなって嵯峨を見つめるばかり。
額と額がくっつきそうなくらい、二人の顔が近付いた。
これほど美しい人と密着しているというのにゆらはまったく羞恥を感じず、心はただ穏やかに、まるで凪いだ水面を揺蕩うような浮遊感に包まれていた。
そんなゆらに嵯峨が言った。
「さあ参りましょう。妖魔との戦いへ」
間近にある、変わらぬ穏やかな微笑み。
けれど、その異国の人の持つような色素の薄い灰色の瞳には、ゆらの決意を促すかのような鋭い光が瞬いていた。
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