(4)成敗

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 その頃おしずと娘たちは、無事屋敷の裏に出ていた。  どこかにあるはずの裏門を探して。  身を寄せ合い怯える娘たちを気丈に励ましながら、おしずは周囲にも気を配っていた。  拉致され虜囚の身になってからろ、くな食べ物を口にしていない。  体はふらふらとして力が入らないが、今は弱音を吐いている時ではなかった。  こうして外に出ることが出来たのだ。  一刻も早くここから逃げ出したい。  その思いだけが支えだった。 「みなさん、もう少しですよ。頑張って」  そう声を掛けるのも、半分は自分を励ますためだった。  そうだ。もう少し。  この塀のどこかにある門を探し当てれば、わたしたちは家に戻ることが出来る……。 「そう、やすやすと逃がすと思ったか」  地面をたたく雨を縫うように聞こえてきたのは、地を這うような声だった。  びくりと身を強張らせ足を止めた。  小さな悲鳴を上げる娘たちを庇いながら、おしずは顔を上げた。  闇の向こうに男が一人。  全身黒づくめの羽織袴で泰然と立っていた。 「お前たちは大切な(にえ)だということを忘れたか」  動悸ばかりが激しい。  口がからからに乾いて、思うように声が出せない。  おしずはいくら強気になっても無理なのだと痛感した。  力ない己など、力ある者には決して逆らうことは出来ないのだと。  カサカサと音がした。  何度聞いても全身が粟立つ、あの音だった。 「ひ~」  と声を上げ、娘が一人地面に倒れた。だが誰もそれに構うことが出来ないでいる。  おしずでさえ、そうだった。 (もう、だめだ……)  諦めよう。  そう思った時だった。 「ほんと、胸糞悪いったらないよ」  涼やかな声が聞こえた。  と思う間もなく、一陣の風が舞った。  その風が次々と蜘蛛を切り裂いていく。  雨と共に、蜘蛛の破片が宙に飛ぶ。  それは宙に舞ったまま更なる風に切り刻まれ、やがて微小な塵となって消えてしまった。
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