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これは友人の祖母であるミチさんの話。
ミチさんが生まれ育った山あいの小さな村には、決して犯してはいけない禁忌があった。
『村の入り口から続く道沿いに家を建ててはいけない』
『禁所(ごんしょ)にある物は木の1本、花の1輪、葉の1枚、石の1つも持ち出してはいけない』
というものだった。
通りに面した家には「厄」が入り込みやすく、家人に良くない事が起こると言われていたため。
また『禁所(ごんしょ)』と呼ばれる場所は「山の神様の住まう場所」と信じられており、非常に気難しいこの神様は自分のモノを奪われるのを嫌うため、良質な木材が採れる事が分かっていても伐り出す事は固く禁じられていた。
ある時、高齢の村長が亡くなり、都会の大学で学んだという長男が跡を継いだ。
都会で学問を修めた事が自慢の長男は、村に伝わるこれらの禁忌を鼻で笑って歯牙にも掛けなかった。
それでも父親が存命の間は大人しくしていたのだが、前村長が亡くなってしまうとすぐに、人々が守ってきた禁所(ごんしょ)から木材を伐り出し、見せつけるように通り沿いに大きな屋敷を建て始めたのだ。
何人もがやめるように諫言したが、新村長は「この近代化の世の中に山の神もクソもあるものか。当てられるバチがあるなら当ててみろ」と豪語し、人々を追い返してしまった。
しかし大きな屋敷が出来上がった途端、生まれて間もない村長の娘が急死する。
死因は乳幼児特有の突然死だったのだろうが、村人達は『禁所を犯したからだ』『禁忌を破ったからだ』と噂し合った。
表立って口にする者はいなかったが、狭い村内の事、その噂が村長の家族の耳に入らないはずもない。
幼い子供を亡くしたショックと村人との確執からくる心労で、今度は妻が心を病んでしまった。
虚ろな表情で、また泣き喚きながら村中を徘徊する妻の姿を何人もが目にした。
そんな妻の様子に「恥晒し」と腹を立てた村長は、屋敷内の一室に妻を閉じ込めてしまった。
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