艶書

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 誰も来ない放課後の図書当番が一緒になって、喋る様になったのがキッカケだ。  本が好きでも友達にそれを悟られるのが何となく気が引けていた一至は、図書委員なら好きなだけ本が読めて、周りに根暗な印象は与えまいと計画的にその座を確保した。 「君も当番?」  夏なのに新雪の様な白い腕が半袖から伸びていて、その頃はまだ一至の方が小さかったから、背が高い印象を受けた。  作り物の様な精巧な顔立ちを一目見て、一組で噂の男だと察した。  クラスは違えど縁の噂は羨望誹謗に関わりなく耳に入る。  両親がいなくて祖父母と暮らしている事や、あまりにも美麗でスカウトされたことがある事、中には男に告白されたと言うものもあった。 「あ、秋月……」 「何で僕の事知ってるの?」  人形の様で近寄りがたいと思っていた美丈夫は、子供の様な幼い顔でそう問い返した。一至はまさか噂を聞いて、とは答えられずに「お前、目立つから」とだけ返した記憶がある。 「ねぇ、一至、初めての経験をした女性って、どんな気持ちだと思う?」 「俺が知るか。俺は女の気持ちが分からない事に関しては折り紙つきだ」 「デスヨネー……」 「何でもいいからお前のその自慰行為をさっさと終わらせろ」 「じ、自慰……って……」 「自分のもんを満足するまで弄繰り回してるそれが、自慰行為じゃ無くて何なんだ? ちゃんと送信(だす)まで見ててやる。俺は優しいからな」 「わーかったから、変な言い方しないでっ! 恥ずかしくなるから!」  縁の耳の裏から細い首筋に掛けてが赤く染まる。  人慣れしてない縁は、ちょっと下ネタで弄るとすぐ照れて赤くなる癖に、書いているものは何処までも艶やかで淫蕩だった。  この初心な男からあの恍惚とした妖艶な作品が生み出される様は、そのギャップを知るからこその萌えがある。
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