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友だち
建物の中は、ガランとしていて静かだった。
本当に、なにもないんだ。
廊下の角に自動販売機があったから、ボクはそこでジュースを買うことにした。
「なぁんだ、なにもないじゃん。本当につまんないの」
そばのイスに座ってジュースを飲みながら、ぶつぶつと独り言を言った。
だって、ほかに話す人がいないんだもん。
「ママは『死んだ人が運ばれてくる』って言ってたけど、どこにもいないじゃん。もっとたくさん、死んだ人がいるのかと思ったのに」
「いるよ。でも、ここじゃないんだ。別の場所にいるんだよ」
いきなり、ダレかの声がした。
ふり向いたら、知らない男の子が立ってた。
「ダレ?」
「ボク? ボクは恭一って言うんだ。ねえ、君、ヒマ?」
「うん。すごくヒマなんだ」
「じゃあさ、ボクと遊ばない?」
「いいね、ダレもいなくて退屈してたんだ」
「なにして遊ぶ?」
「みんなに見つかると怒ら れるから、みつからないように『かくれんぼ』でもしようよ」
恭一君は楽しそうに笑って、ボクの手をにぎった。
ヒヤッとして冷たい手だったけど、気にならなかった。
ママも『冷え性』とかっていうので、いつも手が冷たいんだ。
だから、恭一君もきっと『冷え性』なんだね。
廊下の向こうの方から、ママがボクを呼ぶ声が聞こえた。
「まずい! ママだ!」
見つかったら、絶対に怒られる。
「行こう、恭一君!」
「うん!」
ボク達二人は手をつないで建物の中を走り出した。
かくれんぼ、開始だ!
鬼はパパとママ。
みんなに見つからないように、かくれなくちゃ!
どこにかくれよう?
テーブルが置いてあるだけの広い部屋とか、座布団の用意された空き部屋もあった。
「トイレとかにする?」
「ダメだよ。そんな所じゃ、すぐに見つかって連れ戻されちゃう」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「まかしておいて。絶対に見つからない場所を知ってるんだ」
恭一君は、ボクよりも火葬場にくわしいみたいだった。
廊下を走って階段をかけ下り、ボクと恭一君は笑いながらパパとママや親戚の人達にみつからないように、かくれる場所を探した。 一階の一番奥にあるガランとした広い部屋に出た。
いくつも鉄のドアが並んでいて、なんだか、お線香のニオイがした。
ダレもいなくて、ドアの前には写真が置いてあった。
「これって、なに?」
「これ? このドアの奥に死んだ人が寝ているんだよ」
「そうなの?」
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