ネットカフェ ナイトパック

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事情があって、最近、よくネットカフェを利用する。 一昔前のネットカフェ、いわゆる「マンガ喫茶」があちこちに開店し始めた頃は、ゴミゴミ雑然として、女性が一人で利用するにはちょっと抵抗がある感じだった。 今時のネットカフェは、多彩なサービスが用意されており、最低限のプライバシーも守られ、格段に居心地が良くなっている。 24時間の営業は当たり前で、女性でもホテル代わりに気軽に利用できるようになった。 私は煙草の吸える、フラットタイプの個室を好んで利用する。 やはり足を伸ばしてゆっくりしたいし、リクライニングチェアなどでは、どうも足が浮腫んでしまうのだ。 カバンを抱え、カウンターで受付をして利用時間を伝える。 「ナイトパック8時間でお願いします」 ビジネスホテルなどに宿泊するよりも、格段に安い。 泊まるだけなら2千円以下で済む。 顔見知りになった店員さんに伝票をもらって、個室に入り、一息。 まあ、薄い壁一枚とはいえ、隣の部屋を利用している相手の顔も姿も見えないというのは、私にちょっとした安心感を与えてくれる。 完全に外界と切り離されて、人の気配さえも感じられない空間よりも、適度に閉鎖され、なおかつ誰かの気配が感じられる曖昧さがいいのだ。 キーボードを叩く音、ドリンクコーナーの機械音、スタッフのシャワールーム利用可能を伝える足音、本のページをめくる音。 ホテルなどの宿泊施設では、こうはいかない。 隣室の音がうるさいと、苦情の対象になってしまうだろうから。 でも、私にとってこれらの雑音は、妙に落ち着くものなのだ。 「自分一人ではない」 そう思える。 ホテルの部屋で夜中に目を覚ました時に感じる、あの孤独感がいたたまれない。 だから私は、ネットカフェを利用する。 店内の無数の個室で自分の時間を過ごしている利用客の中には、もしかしたら、私と同じように感じている人もいるかもしれない。 ドリンクを片手に、こんな時にしか読む事の出来ないコミックを好きなだけ選んで、自分だけの時間を過ごす。 それを考えると、嬉しくなってくる。 これから眠くなるまで、好きなだけ本を読めるのだ。
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