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個室へ戻り、冷たいドリンクで喉を潤しながら、ビーズクッションの脇に積んだ本を読み始める。
それこそ、時間を忘れて読みふける。
ふと気がついて時刻を確認すれば、携帯電話の時計は午前2時ちょっと前を示している。
どうしよう。
翌日(厳密には今日だが)の事を考えたら、寝た方がいいに決まっている。
だが、どうも眠れそうにない。
仕方がない。
自然と眠くなるまで、起きているとしよう。
そう思いつつも、周囲のブースから聞えてくるキーボードのタイプ音を聞いているうちに、知らず睡魔が訪れたらしい。
うつらうつらしてしまった。
そのまま眠りに落ちてしまった。
目が覚めたのは、何が原因なんだろう?
個室のドアを叩かれた訳でもない。
誰かが大きな音をたてた訳でもない。
寝苦しかったのだろうか?
でも、冷房はちゃんとかかっている。
薄着の季節では、寒いくらいだ。
変な姿勢で眠ってしまったのだろうか?
そうならないために、フラットタイプの個室を頼んだのだから、それもない。
利用した人なら分かると思うが、「個室」とは言っても天井まで壁で覆われている訳ではない。
部屋の中で立ち上がれば、ちょうど視線の位置で壁は切れている。
ちょっと背伸びすれば、隣のブースを覗き込む事は可能だ。
何やら、そんな不謹慎な気配を感じたのだろうか?
仰向けに寝ていた姿勢を変えるため、寝返りを打つ。
決して広いスペースではない。
足を伸ばして横になれば、それで一杯だ。
パソコンとテレビのケーブルを引っ掛けないように、慎重に体の向きを変える。
その時に、気がついてしまった。
気配は、自分の寝ている個室の中にある。
……いや、そんなはずは……。
だって、ドアは内側からロックしてある。
壁を乗り越えたのか?
そんな事をすれば、受付にいる店員に見つかるだろう。
店内を歩いている他の利用客にだって。
じゃあ、この気配は何だ?
この……重苦しくて、厭な感じは。
閉じていた目をゆっくりと開く。
目の前にあるのは、隣室とこの部屋を隔てる薄い壁。
そこに異変は感じられない。
とすれば、異変は私の背後にあるという事になる。
意を決して、振り返る。
……だが、そこにも気になるものは何もなかった。
やはり、私の思い過ごしだったんだ。
安堵に大きく息を吐いて、私は体を起した。
自分が思いの外、神経質になっていたのだと感じて可笑しくなった。
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