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これだけ周囲に人がいるというのに、何が不安だと言うのか。
落ち着くために、冷たいドリンクでも取りに行こう。
立ち上がろうと、床に手をつき……。
私は見てしまった。
パソコンとテレビの置いてあるテーブルの下。
わずか30センチから40センチの空間に。
子供が座っている。
青白い肌をした
どこを見ているのか判らない
虚ろな目をした
頭の大きな
子供。
あまりの事に、私は声も出せずに飛び上がった。
あり得ない。
ゴミ箱と私の荷物を詰めたカバン。
それらと同じくらいの存在感で、子供がそこにいる。
少年なのか、少女なのか、何歳くらいなのか、よく判らない。
ただ何をするでもなく、膝を抱えて子供が座っている。
そんな所に、いるはずがない。
入れるはずがないんだ。
頭が反応する前に、体が反応した。
立ち上がる瞬間、足をテーブルにぶつけて大きめの音がした。
その音に、隣の部屋から聞えていたイビキが一瞬途切れて、間もなく再開する。
スリッパをはくのももどかしく、通路に転がり出た私はドリンクコーナーへ足早に向かった。
アイスコーヒー、砂糖とミルク多め。
飲み干すと、少しだけ落ち着いたような気がした。
二杯目はホットドリンクを選択し、ことさらにゆっくりと自分のブースへ戻った。
ドアを開けて、やっぱりそこにいたら……どうする?
唾を飲み込み、取っ手に指をかける。
通路をすれ違った男性客が、不思議そうな顔をしていた。
そりゃあ、そうだろう。
そっとドアを開けて、中を覗き込む。
ビーズクッション、読みかけのコミック、カバン、ゴミ箱、パソコン、テレビ、灰皿。
見回すまでもない。
一目で判る。
先程の子供は、跡形もなく消え去っていた。
ホッと息をついて、部屋に入り込む。
だが、もう眠る気にはなれなかった。
受付前には、人があふれていた。
きっと空室待ちだろう。
今更、部屋を変えてくれと言っても無理だろう。
そう判断した私は、ひたすらに煙草とドリンクを消費し、本のページをめくる事に専念した。
その後、怪しい事など何も起こらず、私は退室の時間を迎えた。
寝不足の頭と荷物を抱えて、私は部屋を後にした。
利用しているネットカフェが入っているビルで、事件や事故が起こった話など、地元に10年以上暮らしているが聞いた事はない。
そもそも、ネットカフェ自体が数ヶ月前に同じ商店街にあるビルから移転してきたばかりだ。
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