雨夜の訪問者

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ああ、最悪。 朝から降っている雨が、夜になっても、まだ止まない。 雨も、帰りの遅くなった夜道も、嫌いだけど……ダブルで重なった日は、本当に最悪よ。 傘を差していてもジトジトと服は濡れるし、足元はグチャグチャだし。 気が滅入るったらないわ。 今年は雨が多くって、いつまでたってもスッキリした天気にならないんだから。 ワタシは残業を言いつけた上司の顔を思い出し、ブツブツと毒づきながら帰り道を急いでいた。 早く帰って、この湿って足に張りついたストッキングを脱ぎたかったし、温かいお風呂に浸かってゆっくりしたかった。 それにしても、いつまで降り続くのよ、この雨? 駅から帰る道は、バイパスに通じる道の方が明るくていいんだけど、遠回りになるんだよね。 早く帰りたいし、暗くてちょっとヤだけど、裏道から行くとしようかな。 裏道は神社や寺院の脇を通るし、田んぼしかない所だから、街灯がついていても暗くて夜はあんまり歩きたくない道。 いつもなら自転車でさっさと通り過ぎる道も、雨となれば自分の足で歩いて帰るしかないわけで。 携帯にダウンロードしたお気に入りの音楽をヘッドフォンで聴きながら、出来るだけ早足で家へ向っていた。 近所にあるお稲荷さんの前を曲がれば、あとは一直線。 ちょっと先にあるバイパスの光にホッとする。 もうすぐ、家に帰りつけるわ。 そしたら濡れた服を全部脱ぎ捨てて、お風呂場へ直行よ! 濡れたアスファルトの路面に、ワタシのパンプスの音が響く。 ピチャッ、パチャッ、と水を跳ねるこの音って、どうしてこんなに気に障るのかしら? 音楽を聴いているはずなのに、その音だけはしっかりと耳に届く。 それともこれは、耳じゃなくて、足から直接衝撃で伝わるせいかしら? そんな事をつらつら考えて歩いていると、前方にある街灯が切れかかってチカチカしているのが見えた。 「やだ、ちゃんと直しといてよねぇ」 薄暗い、人気のない、雨の夜道。 街灯の明かりだけが頼りなのに、それが切れかかってるんじゃお話にならないわ。 ワタシは大きくため息をつくと、さらに足を速めた。 ん? 街灯の下。 電信柱の影に、誰かいる? チカチカと点いたり消えたりしている街灯の下に、小さな影を見つけてしまった。 子供? でも、今、夜中近くよ? こんな時間に子供が一人で立ってるのって、おかしくない? 「何で? 何してるわけ?」
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