6人が本棚に入れています
本棚に追加
間延びした声。
キツく巻きつく冷たい手。
こいでも、こいでも、近くならないバイパスの光。
重たくなる一方の自転車のペダル。
でも、足を止めたら……そうしたら、もう帰れないって本能的に分かってしまったから。
止められない。
どんなに重くても、自転車のペダルをこぐのを止められない。
『どうして、そんなに頑張るのぉ? ムダだってば。もう、この空間からは出られないんだよぉ』
そうか、ここは彼女が作り出した空間なんだ。
『さあ、どうするの? もう、アタシと一緒に逝くしかないんだしさ。諦めたらぁ?』
馬鹿にしたような物言いが、すごく癇に障る。
「あんた、友達いなかったでしょ?」
ムカついて、ワタシは背中に張り付いている【彼女】に言ってやった。
「あんた、性格悪そうだモンね。友達いるはずないよね」
『何よ、だから何だって言うの? アタシに友達がいなかったからって、どうだって言うのよ?』
あ、反応した。
図星なんだ。
ワタシは必死で足を動かしながら、背中を伺いつつ言葉を探した。
「かわいそうなんて、思ってやらないんだから。人にくっついて、人の都合も考えずに……まったく、冗談じゃないわよ。何でワタシなのよ?」
『だって、あなた、お人好しそうなんだもの。頼まれたら、イヤって言えない性分でしょ?』
「だからって、霊に『一緒に逝きましょうぉ』って言われて、ホイホイついて行く訳ないでしょ! あんた、馬鹿じゃないの!!」
くそっ!
気合だ!
気合で負けたら、連れて行かれる。
根拠のない確証。
「一人じゃ寂しいからって、お人好しそうな人間が通りかかるのを待ってたって訳だ。ご苦労な事で!」
吐き捨てるように言ってやる。
『何よ! アタシの事なんて、何も知らないくせに! 偉そうぶった事、言わないでよ』
「知らないわよ、知るわけないでしょ! ワタシだってね、自分が生きていく事で手一杯なんだっつーの!
どこの誰だか知らないヤツの事になんか、関わってらんないってのよ」
ワタシは必死でペダルをこぐ。
この足が止まったら、終わりだ。
何としても、こぎ続けなきゃ!
「あんたの人生が、どんなモンだったかなんて、ワタシには関係ない!
ワタシは生きてて、あんたはもう、この世にはいないんでしょ?
いつまでもグチグチ言って、未練がましく、しがみついてんじゃないわよ!
最初のコメントを投稿しよう!