雨夜の訪問者

10/15
前へ
/15ページ
次へ
間延びした声。 キツく巻きつく冷たい手。 こいでも、こいでも、近くならないバイパスの光。 重たくなる一方の自転車のペダル。 でも、足を止めたら……そうしたら、もう帰れないって本能的に分かってしまったから。 止められない。 どんなに重くても、自転車のペダルをこぐのを止められない。 『どうして、そんなに頑張るのぉ? ムダだってば。もう、この空間からは出られないんだよぉ』 そうか、ここは彼女が作り出した空間なんだ。 『さあ、どうするの? もう、アタシと一緒に逝くしかないんだしさ。諦めたらぁ?』 馬鹿にしたような物言いが、すごく癇に障る。 「あんた、友達いなかったでしょ?」 ムカついて、ワタシは背中に張り付いている【彼女】に言ってやった。 「あんた、性格悪そうだモンね。友達いるはずないよね」 『何よ、だから何だって言うの? アタシに友達がいなかったからって、どうだって言うのよ?』 あ、反応した。 図星なんだ。 ワタシは必死で足を動かしながら、背中を伺いつつ言葉を探した。 「かわいそうなんて、思ってやらないんだから。人にくっついて、人の都合も考えずに……まったく、冗談じゃないわよ。何でワタシなのよ?」 『だって、あなた、お人好しそうなんだもの。頼まれたら、イヤって言えない性分でしょ?』 「だからって、霊に『一緒に逝きましょうぉ』って言われて、ホイホイついて行く訳ないでしょ! あんた、馬鹿じゃないの!!」 くそっ! 気合だ! 気合で負けたら、連れて行かれる。 根拠のない確証。 「一人じゃ寂しいからって、お人好しそうな人間が通りかかるのを待ってたって訳だ。ご苦労な事で!」 吐き捨てるように言ってやる。 『何よ! アタシの事なんて、何も知らないくせに! 偉そうぶった事、言わないでよ』 「知らないわよ、知るわけないでしょ! ワタシだってね、自分が生きていく事で手一杯なんだっつーの! どこの誰だか知らないヤツの事になんか、関わってらんないってのよ」 ワタシは必死でペダルをこぐ。 この足が止まったら、終わりだ。 何としても、こぎ続けなきゃ! 「あんたの人生が、どんなモンだったかなんて、ワタシには関係ない! ワタシは生きてて、あんたはもう、この世にはいないんでしょ? いつまでもグチグチ言って、未練がましく、しがみついてんじゃないわよ!
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加