雨夜の訪問者

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死んでからそんなに必死になるくらいなら、どうしてもっと生きてるうちに、必死にならなかったのよ!?」 へばりついてくる悪意に負けないように、懸命に口と足を動かす。 『アタシだって、もっと生きたかった! 楽しい事だって、嬉しい事だって、沢山経験したかった。 美味しいモノ食べたり、楽しいおしゃべりしたり、映画観たり。 でも死んじゃったんだから、仕方ないじゃない! 死んだのは、アタシのせいじゃないわ! 雨の夜に歩いてたアタシの後ろから、トラックが突っ込んできたのよ! アタシにはどうしようもないじゃない! アタシが死んだのは、アタシのせいじゃないわ!』 だからって、他人に憑いていい、言い訳になんか、なるかっつーのよ!! 重いペダルをこぐために、思考さえも切れ切れになる。 くっそ、まだか、出口は!? 「ああ、そうなの! そりゃあ、ご愁傷様! でも、だからって、他人に憑いてあの世に連れて行こうなんて、非生産的なこと考えてんじゃないわよ! 【死んだのはアタシのせいじゃない】ですってぇ? ふざけんじゃないわよぉぉ! だったらこんな所でグジグジ恨み言喚いてないで、さっさとあの世にでも何処にでも行って、新しく生まれ変わってきたらいいじゃない。 その方がよっぽど前向きでしょうに! そんでもって、突っ込んできたトラックの運転手の所にでも行って、【よくも殺してくれたわねぇぇぇぇ】とかって乗り込んでやればいいじゃないのよっ!」 まあ、そん時には相手の運転手が事故のこととか覚えてるかどうか、定かじゃないけどね。 「ええ、ええ、死んじゃったあんたは可哀想なんでしょうよ。でもねぇ、現実に生きてるワタシ達だって、十分に可哀想な目にはあってんのよ! あんたには分かんないでしょう? 毎朝、毎朝、オヤジ共の加齢臭とそれを誤魔化す大量のヘアトニック、頭から被ってきたんじゃないかと思う程強烈な、オバサマ方の香水、ちゃんと歯磨きして来たのかよ? それとも胃が悪いのか? ってな感じの口臭に、殺人的な体臭、そんなモンの充満した乗車率200%の電車に2時間も乗ってみなさいよ。 しかも、どんなエクササイズだよ? みたいな無理な体勢で。会社に行く前に足はガクガクになるし、肩はバリバリに張ってるし。 会社に行けば行ったで、お局さまの嫌味を散々聞かされ、嫌いな上司からはセクハラまがいの扱いを受けて。
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