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そんで、ワタシよりも嫌な事、山ほど経験してくりゃいいじゃないのよ。【ワタシだって、こんなに経験してきたのよ!】ってね!!
そしたら、ワタシもちゃんと話を聞いてあげるわよ!!!」
ワタシが渾身の叫びを挙げると、首に回されていた冷たい、湿った腕が外れた。
『アタシだって、もっと生きていたかった。もっと、色んな事を経験したかった。アタシだって……』
しわがれた悪意に満ちた【彼女】の口調が変わった。滴っていた悪意が消えて、淋しそうな……いやいやいや、ここで同情しちゃいけない。
「だったら、ちゃんと生まれ変わってきなさいよ。何にしたって、ワタシはあんたに同情なんてしてあげない。死んだ事を嘆いて、先に進めないヤツの話なんて聞いてやらない。
ワタシは生きてる。あんたは死んでる。これはどうやったって、変えられない。ワタシはあんたについてって、一緒にあの世とやらに行ってやる気はさらさらない! ここであんたを連れて帰る気もない! だから、さっさとどっかに行っちゃいなさい!!」
気力も体力もヘロヘロだったけど、残った力を体中からかき集めてペダルに集中させる。
明かりが近付いてくる。もう少し。
『お姉ちゃん、待って……』
後ろから、か弱い少女の声が聞こえたような気がしたけど、振り向かない。絶対に!
通りを走る車の音が耳に入った。途端に、あれ程重かった自転車のペダルが軽くなる。
やった!! あの変な空間を抜けたんだ!
家に帰り着くのが、こんなに嬉しかった事はない。
幸いにも、バイパスの信号は青で、自転車を止める事無く通りを渡ることが出来た。
ここを渡ってしまえば、家は目と鼻の先。
びしょ濡れの服が体に張り付いて、気持ち悪いけど……そんな事言ってられない。
どうにかこうにか自宅の前まで辿り着くと、自転車を停めるのもそこそこに、ワタシは家の中に飛び込んだ。
いつもの場所に置いてある「姉専用」の壷を持ち出し、バスルームへ直行する。
濡れた服を脱ぎ捨てると、バスタブへ塩をぶちまけ、勢い良くお湯を出した。
お湯が溜まるのも待ちきれず、バスタブの底に残っている塩で体をこすり始める。
あの冷たい感触も、湿った肌の感じも、早く忘れてしまいたい。
ヒリヒリするけど、構ってられないわ。
首周りを重点的に塩でこすった。
ある程度お湯が溜まったら、洗面器ですくって頭の天辺からかぶる。
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