雨夜の訪問者

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姉から教えられたように、体の隅々まで塩を入れたお湯で清める。 体が温まってくると、ようやくゆっくりと息が吐けるようになった気がした。 「やった……。勝ったのよね。ワタシ、アレに勝ったんだわ……」 もう、あの道を通るのは絶対によそう。懲り懲りだわ。 存分にお湯を使い、温まったワタシは、タオルで髪を拭いながらリビングへ戻った。 使った分の塩は、買って返さないといけないだろうなぁ。 姉が使っている塩は、スーパーで売っているようなものではなく、天然100%の特別誂えの塩。 自分で買おうと思うと、高いんだよなぁ。 でも、黙って使ったのがバレルと、後でこっぴどい目に会うし。 ところで、誰もいないみたいだけど、皆どこに行っちゃったんだろう? そう言えば、車がなかったような気もするけど。良く見てなかったし。 お父さんはまだ帰る時間じゃないとしても、お母さんまでいないなんて。 あ、買い物にでも行ったかな? 塩の壷をもとあった場所へ戻し、ホットココアでも淹れようとしていると、車のエンジンの音が聞こえた。 やっぱり、買い物にでも行ってたんだな。 ヤカンをガスにかけ、火をつける。 玄関の開く音がして、母のただいまーという声が聞こえた。 「んー、お帰りー」 「ちょっと、玄関前の自転車、ちゃんと停めときなさいよぉ」 「うん、わかったぁ」 忘れてた。ちゃんと直しておかなくちゃ。 「それより、聞いてよー」 母の甲高い声が響いた。 「何よ?」 「こんな雨の夜に、子供を道端に待たせっきりにしている親がいるのよ。信じられる?」 玄関先に、買い物袋を置くガサガサという音に負けまいと、母が声を張り上げて訴えてきた。 母の言葉がワタシの神経に刺さった。 『雨の夜』に『子供』を『待たせて』いる? 「ちょっと待って、お母さん」 ワタシは慌てて、リビングを出る。 けれど、ワタシの声が聞こえないかのように母は言葉を続ける。 「あんまり可哀想だから、うちに連れて来てあげたの。うちから電話を掛けてあげようと思って。こんなご時世に、子供を一人で道端に待たせておくなんて」 「だめ、お母さん、その子を家に入れないで!」 ワタシが叫ぶのと、玄関のドアが閉まる音がしたのは、同時だった。 「ねえ、タオル持って来てちょうだい。この子、びしょ濡れなのよ」 そう言っている母の声を、ワタシは上の空で聞いていた。 リビングからは、お湯の沸くシューシューという音が聞こえてくる。
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