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『誰かいるでしょ?』
「うん、実は電柱の所に、小学生くらいの女の子が……」
『今すぐ走って!』
「は? お姉ちゃん、何言って……」
『走れって言ってんのよ!』
「だって、女の子ほったらかしには出来ないじゃない」
『いいから! 走りなさい! 今すぐ!!』
姉のその剣幕にただならぬモノを感じたワタシは、背後を振り返ることなく、そのまま家に向って走り出した。
背中が気になって仕方がない。
バッグが肩からズリ落ちるのも、水を跳ね上げるパンプスのせいでストッキングやスカートの裾が汚れるのも気にならなかった。
姉があれだけ慌てているって事は、やっぱり関わっちゃいけないヤツだったんだ。
姉はワタシと違って、「霊感」というものが生まれつき備わっている。
学生時代に友人と遊び半分で出掛けた有名なトンネルから帰った時、玄関を入るなり姉に怒鳴りつけられた事もある。
『あんた、どこ行ってたの! そんなモンくっつけて!!』
自分では分からなかったけど、相当にヤバイものをくっつけて帰ってしまったらしい。
バスタブに粗塩をぶちこんだお風呂に、頭から突っ込まれた記憶がある。
就職して初めて付き合った彼氏を紹介した時、彼の姿が見えなくたったとたんに、物凄い剣幕で別れる様に言われたこともある。
「どうしてよ!?」
納得のいかないワタシが姉に詰め寄ると、姉は声を潜めて
『すんごい顔した女の人が、彼の肩からあんたの事睨んでたわよ。彼、二股かけてるわね』
それからしばらくして、彼には別に彼女がいて、壮絶な修羅場を繰り広げた事を知った。
姉の言うことを聞いて、別れておいて良かったわ。
ようやく家に帰り着き、ハァハァと息を整えているワタシの目の前で、玄関のドアが勢い良く開いた。
「お、おねえち……ぶばっ!」
正面から、まともに塩をぶっかけられた。
顔面にヒットした塩は、容赦なくワタシの口の中に入り込んできた。
「ぺぺぺぺっ! しょっぱ……」
「あんたはもう! どうしてロクでもないモノにばかり係わり合いになるのよ!?」
【姉専用】と書かれた札の貼られた壷を持った姉が、眉をひそめて立っていた。
「いい加減にしてよね、てい!」
再度、塩をぶっかけられる。
ワタシ、ナメクジじゃないんですけど……。
塩まみれのワタシの襟首を引っつかむと、姉はお風呂場へ直行した。
ワタシを放り込んでから、ビッと指を突きつけ物申した。
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