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「隅々まで、きれいサッパリ洗い流しなさい! 頭からお湯かぶるのよ! って言うか、潜りなさい!」
言うだけ言って、姉はドアを閉めて出て行った。
ああ……バスタブにも、塩がぶち込んであるんだろうなぁ。
塩って髪の毛、傷むんですけど……。
「例」のヤツの残滓が残ると、ワタシも何かと困るし。
姉に言われたとおり、髪の毛の先までお湯に浸かるように頭を押さえてバスタブに潜った。
雨に濡れて冷えていた体が、ゆっくりと温まっていく。
やっぱり、あの女の子は見えちゃいけないモノだったんだ。
塩気を落とすために強めのシャワーを浴び、サッパリして髪の毛をタオルで拭きながらお風呂場を出ると、姉が煙草を吸いながら壁に寄りかかって立っていた。
「お姉ちゃん……」
ワタシの事をキロリと見ると、くわえ煙草のままで手招きした。
リビングに入ると、両親はすでに寝ているらしい。
ソファーに腰掛けた姉が、作っておいてくれたらしいホットココアをワタシの前に差し出してくれた。
「あ、ありがと」
両手でカップを包み込み、ワタシは頭にタオルを乗っけたままココアを吹き冷ました。
「あんたさぁ……あの道、通るのやめな。それでなくてもあんたは、ロクでもないモンくっつけやすい体質してるんだからさ」
え? そうなの?
「気が付いてなかったわけ? あんた、自分では普通だと思ってるみたいだけど、相当引っ張られやすい体質してんのよ。危ないところには、絶対に近寄らない事! あたしが何とか出来る事ならいいけど──いや、良くないか──どうにも出来ない事だってあるんだからね!」
「……分かった。あの道、通るのやめる。でも、あの女の子、何だったんだろう? 雨の日に何度も通った事あるけど、あの子を見たのは今日が初めてだよ」
ぷーっと煙草の煙を吐き出しながら、姉が明後日の方を見ながら言った。
「きっと、あんたみたいな人間を渡り歩いて来たんでしょうね。時間が経ってるから、結構厄介なモノになってるよ。人間に悪さするチャンスを狙ってるんでしょ。だから、あんたみたいな霊的お人好しが関わっちゃいけないの。分かった?」
家にいたあたしが、全身に鳥肌が立つほどヤバさを感じて電話したんだから。
面倒臭そうにそう呟いた姉の存在に、ワタシは心底感謝した。
「そうだ、あんた、あの子に何も約束しなかったでしょうね?『またね』とか『今度ね』とか」
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