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身を乗り出して聞いてくる姉に、ワタシは記憶を辿りながら答えた。
「何も言ってないと思うけど……」
「そう、それならいいんだ。連中の中には、律儀に相手の言葉を覚えているモノもいるからね。安易に約束なんかすると、後でとんでもない目にあうからさ」
煙草を灰皿に押し付けて立ち上がると、大きく伸びをする。
「あたしは、もう寝るよ。朝早いからさ。あんたも、さっさと寝なよ」
それだけ言うと、姉は手を振ってリビングから出て行った。
ワタシも安心したせいか、急に眠たくなってきた。
ココアのカップを流しに置くと、リビングの明かりを消して部屋へ向った。
それからは、姉の言いつけを守って裏道を使わなくなった。
雨が降っている日でも、近道の裏道ではなく、遠回りのバイパスに出る道を使って帰るようにした。
自分では気づいていなかった「寄せる体質」である事を姉に教えられてから、余計に警戒するようにもなった。
おかげで、何事もなく月日が流れ、ワタシの中にあった「恐怖心」も薄れ始めていた。
だって毎日、変わった事なんて何もないのよ?
心配するだけムダだったって事じゃない?
それに定期入れの中に、お守りの塩を半紙に包んで持ち歩いてるし。
「ねえ、久し振りに飲みに行かない?」
仕事が終り、同僚が飲みに誘ってくれたのは、あの出来事から2ヶ月以上が経過した頃だった。
「あー、行く行く! ちょっと待ってー」
机の上を片付け、荷物をバッグの中に突っ込むと、ワタシは待っている同僚の許へ小走りに駆け寄った。
「お待たせー」
「どこ行こっか?」
「あ、ワインの美味しいお店見つけたんだ」
「えー、ワインかぁ。どっちかって言うと日本酒の気分なんだけどなぁ」
他愛のない会話。
美味しいもの、可愛いもの、安いもの、ブランド品、化粧品、男の話に女の話。
日頃の鬱憤を晴らすように、女同士の話は留まる事を知らない。
「ねえ、そう言えばさ。お姉さんって、霊感強いんだって?」
何でだか、そういった方面に話しが流れていってしまった。
「うん、結構強い方かな」
「へえ、じゃあ、自分でも見えたりすんの?」
「う~ん。ワタシはどちらかって言うと、霊感とかない人間だから。でもこの前、変な経験したんだよねぇ」
お酒が進んでいた事もあって、だいぶ気持ちが緩んでいたんだと思う。
ワタシは、あの雨の日の帰り道の話をして聞かせた。
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